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special

蒼のカーテンコール
スペシャル座談会Ⅲ
[総監督]佐藤順一
×
[監督]名取孝浩
×
[プロデューサー]飯塚寿雄
×
[アニメーションプロデューサー]松尾洸甫
×
[原作担当編集]萩原達郎
【第1回】シリーズに新しい風を呼び込む姫屋カラー
『ARIA The BENEDIZIONE』と前作の『ARIA The CREPUSCOLO』は、セットで考えられた企画と捉えることができそうです。『ARIA The AVVENIRE』のあと、どのようなやり取りがあったのでしょうか。
飯塚
こちらから天野(こずえ)先生には、最初に新作3本の企画で提案させていただいたんです。おかげさまで『AVVENIRE』が好評で、大原(さやか)さんからの「願いの種」という名の“圧力“もありましたので(笑)。ファンの皆さんの新作を望む声も多かったですし、次にまたやるのであれば三部作もひとつの手だと思ったんです。その後、萩原さんを通して先生とやり取りをする中で、『AVVENIRE』でやったARIAカンパニーの昇格話にならう形でオレンジぷらねっとと姫屋の話にするのはどうですか?と逆にご提案いただいたんです。
松竹さんが打診された三本立ての企画というのは、アリスと藍華の昇格話とはまったく別物だったわけですね?
飯塚
そうです。毎回毎回、先生にゼロから考えてもらうのは申し訳ないですから。こちらから叩き台としていくつかアイデアをお出しして、それを取っ掛かりに先生からなんらかのリターンをいただければと考えていたんです。それに姫屋はともかくオレンジぷらねっとの昇格話はTVシリーズでガッツリやっていますし、当時はその裏にあるアテナさんの想いにまでは考えが及ばなくて。でも先生からアテナさんのドラマをご提示いただけたことで、そのアイデアに乗っからせていただいた形です。
萩原
飯塚さんから最初に新作のお話をいただいたときって、『AVVENIRE』からどれくらい期間が空いていましたっけ?
飯塚
『あまんちゅ!』をやっているときに話をした記憶があります。その後、具体的な話をさせていただいたのは『あまんちゅ!~あどばんす~』の頃だったのではないかと。
『CREPUSCOLO』と同様、『BENEDIZIONE』も天野先生の漫画用プロットをもとにシナリオを作っていく流れだったかと思います。その際、プロデュースサイドから要望したことがありますか?
飯塚
『ARIA』のアニメとしてフィナーレになるという側面もあったので、佐藤さんにはそのためにどう盛り上げるかをシナリオの検討事項に加えてもらいました。あとは先生の漫画用ネームもありましたし、こちらから申し上げることはそんなになかったです。強いて言えば、アル君を入れてもらったことぐらいでしょうか。佐藤さんから上がってきたシナリオの初稿を読んだとき、親父ギャグを言うアル君がいない!と気付きまして(笑)。
佐藤
たしかに言われた記憶があります。
飯塚
前作の『CREPUSCOLO』では、暁やウッディーと違ってアル君だけセリフがなかったんですよね。今回のシナリオは『CREPUSCOLO』が完成する前には上がっていましたけど、藍華とアル君の関係を考えても、ファンが待ち望んでいるはずだと思いましたので。
佐藤監督は、天野先生の漫画用プロットを映画のシナリオに膨らませる上でどんなことを考えましたか?
佐藤
どういうテーマにして、何を足すかですね。『CREPUSCOLO』でTVシリーズでは描かれなかったアテナさんの一面が見られたように、『BENEDIZIONE』の漫画用プロットを読んだときも、藍華の昇格試験にこんなドラマがあったんだ!という驚きがありました。そのドラマを軸に60分の映画に膨らませるために、足すべき要素とテーマをつかむことが最初に仕事になります。それと『AVVENIRE』と『CREPUSCOLO』もそうでしたが、先輩視点で後輩の昇格を描くという構成上、普通にシナリオを組んでいくと途中までは藍華のお話で進むけど、締めはどうしても先輩の晃さんが持っていく形になりがちで。そこは最初にプロットを出したときに飯塚さんからも指摘があり、どうやって藍華の話に戻すかが工夫のしどころでした。キーとなったのがギリシャ神話の「テセウスの船」で、これは部品が全部取り替えられた船は元の船と同じなのかという哲学話です。それに絡めて伝説を受け継ぐ側としての藍華をちゃんと描ければ、彼女の物語で終われるのではないかと。
飯塚
あと、『CREPUSCOLO』の頃から出ていた話ですが、『AVVENIRE』で登場した後輩3人の個性や魅力が伝わるような話を盛り込むという課題もありましたよね。『CREPUSCOLO』ならアーニャだし、今回の『BENEDIZIONE』ならあずさ。シナリオを読んだとき、あずさが思ったよりも熱い子だったのがわかりました。藍華との無言のにらみ合いなんて、『ARIA』ではあまりないシーンだと思います。
佐藤
姫屋ならではという感じがしますよね。
飯塚
怒るまではいかなくても、無言でにらむような描写が晃さんにしろ藍華にしろあずさにしろある。そういうカットの積み重ねによる空気感が、これまでにはない特徴になっていると思います。
佐藤
姫屋のキャラクター性がそうさせるんですよ。藍華と晃さんの絡みだと、印象に残るのはガチでぶつかっているところが自然と多くなる。
飯塚
ガチでぶつかって、晃さんのカッコいい一言に藍華がウルウルする流れですよね。
萩原
先生は佐藤監督に全幅の信頼を置いていますから、シナリオを読むのをすごく楽しみにしていたと思います。感想はいつもシンプルで、バッチリです!とか、素晴らしいです!とボールを返してもらうことが多かったです。
新キャラクターの明日香・R・バッジオについて教えてください。
萩原
本読みの席で佐藤監督から出したいと言われたのですが、正直驚きました。漫画にはまったく出てこない、『月刊ウンディーネ』の中だけで創作したキャラクターでしたから。先生には名前の元ネタになったロベルト・バッジオ氏(元イアリア代表のサッカー選手)の写真資料でデザインしてもらったのですが、似顔絵が昔からとてもお上手なんですよね。それこそ、現役時代の若かりし明日香さんだけキャラデザの作品内法則から逸脱してしまっていないか、と思ったぐらいで(笑)。でも、出演はほぼグランマと同じ現在の老境でしたので、作中では極めて自然に落とし込まれていますよね。
佐藤
シナリオを書いてから原案を上げてもらったんでしたっけ?
萩原
作業は並行だったと思います。シナリオを書いている途中でオーダーをいただいて、先生に話をした記憶があります。
飯塚
天野先生の原案を見たときに、年を取るとやっぱり小さくなるんだ、と思いました(笑)。『ARIA』の謎のひとつですよね。キャラ的には、グランマとの差別化をどうするかが気になっていました。
絵コンテの作業はいかがでしたか?
名取
佐藤さんのシナリオって、いつも脱稿が早いんですよ。4稿とか5稿までいかずに、だいたい2稿ぐらい。おそらくシナリオを書きながら、絵的なことも考えられている感じがします。そういう意味では、絵コンテを描きやすいシナリオですね。一方で、絵コンテが上がったあとで固めたいんだろうな、という部分もけっこうあって。そこを手を付けず佐藤さんに委ねちゃうか、自分なりに一回形にしてみるかどうかは悩みどころです。例えば「いろいろ聞いて回る」と書いてあった場合、何か面白い描写を入れたほうがいいんだろうけど、入れたところで佐藤さんが描き直す可能性もある(笑)。そんなことを考えながら、自分なりに膨らませていきました。
佐藤
というより、投げるところは投げちゃってますから(笑)。そもそもシナリオを書くのが得意じゃないので、字コンテに近いんです。だからト書きも少ない。そのせいで名取君から、このセリフはギャグ顔なのかそうじゃないのかシナリオに書いておいてほしい、と言われたりして(笑)。『CREPUSCOLO』は「エピファニア」(原作10巻収録)のエピソードがあったので、原作から拾える絵が多めにあったんです。それに比べると『BENEDIZIONE』は原作成分が少なくて、こちらで考えなきゃいけない部分が多くて。名取君じゃなかったら、こんなシナリオでコンテを描けるか!ってなると思う(笑)。
そこは、TVシリーズ第1期から参加している名取さんだからこそ委ねられるわけですね。
佐藤
そういうことです。
名取
あと、『CREPUSCOLO』も含めて2時間弱のコンテをひとりで描くのは大変なので、そこは最初に覚悟しました。800カットの絵コンテを描いたのは初めてでしたが、想像以上に時間が掛かるもんだな、と(笑)。カット数的にTVアニメを2本やるようなものだと思っていたら、デカい1本の話を描くのはまたちょっと違ってました。
『BENEDIZIONE』の絵コンテでとくに意識したことはありますか?
名取
今回はテンポよくしたかったので、『ARIA』の枠から外れずにどこまでやるかですね。とはいえ、バトル物みたいになっちゃうとやりすぎだし、ヌルヌル動かしすぎるのも違う。なので、止め絵をうまく使って工夫しました。あと、一画面に入るキャラクター数が多いんですよね。誰と誰が絡んでどういう会話のやり取りが行われるのかを考えて、その上でカメラポジションを計算しなければいけなかったのはけっこう大変でした。
松尾
名取さんのコンテを見たとき、天野先生が描いてくださった漫画の動きや決め絵をできるだけ活かそうとしているのがわかりました。あと、シナリオに書かれた内容を整理して、すごくテンポよくしていただいている印象も受けましたね。加えて実務的なことで言えば、劇場作品だけに難しいレイアウトが多かったです。やりすぎて佐藤さんに却下されたカットがありましたよね(笑)。
名取
あれぐらい攻めて切られるのがちょうどいいんですよ。そうやって生き残ったものが、佐藤さんが認めた面白いカットということで(笑)。
佐藤
名取君は『ARIA』の空気感や音楽の入れ方、背景をちゃんと見せるってことをわかっているので、映画なのに張り切りすぎていないんですよ。
劇場仕様で盛るにしても、ちゃんと抑えを効かせたほうがいいと。
佐藤
そうです。ちゃんと踏み止まらないと『ARIA』らしい空気が出ないですし、そういう微妙なバランスの中で成り立っている世界なんです。
名取
自分はそこまで意識できるわけじゃないですけど、佐藤さんが『ARIA』を作ってきたやり方に照らせば、ここは1カットいらないとか、ここは長尺のほうがいいとなるんです。
佐藤
すっかり染みついちゃってる(笑)。